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[PR]「アメイジング・グレイス」の哀しい歴史

「アメイジング・グレイス」の美しいメロディーと詩に刻まれた哀しい歴史
 
・アメイジング・グレイスは、イギリスの汚れた歴史から生まれた
・奴隷船とはどのような船なのか
 ・奴隷商人が、深い懺悔を歌に昇華させた
 ・史実をもとに、若きイギリス政治家の視点で描かれた


  映画「アメイジング・グレイス」


200年以上も前にイギリスでつくられた賛美歌「アメイジング・グレイス」は今も世界中で歌われ、日本でも、たくさんの歌い手により歌い継がれてきた名歌である。ヒーリング・ミュージックの代名詞といもいえる、美しい旋律と歌詞に秘められた背景には、西欧各国、とりわけイギリスの奴隷貿易という汚れた史実がある。

西欧各国は、15世紀あたりからの大航海時代で繁栄と戦いの歴史を刻みながら、さらなる豊かな強国への野心を燃やし、アフリカ大陸や南米、インド、アジアにまでその触手を延ばした。

やがて、植民地支配が盛んになると、労働力が必要になり、黒人を男女の区別なく、さらには子供まで奴隷として、アフリカで半ば強制的に船に乗せ、奴隷貿易船を何度も往復させた。

奴隷船の環境は劣悪で、船の底で、鉄輪をはめられ木箱に入れ並べられた黒人達は、3週間の長旅の途中、その多くが酸欠で亡くなり、あるいは、自身の糞尿の処理もままならず、病気が蔓延したり、悪天候で船が揺れると、積み荷を軽くするため、生きたまま海に投げ出され、砂糖工場があるジャマイカなどの目的地にたどり着けるのは、3分の1ほどであったそうだ。

そんな奴隷貿易が続く中、奴隷船の管理で富を得たイギリス人商人ジョン・ニュートン(1725~1807)は、母が敬虔なクリスチャンであったためか、少しずつ自身の仕事に懺悔の念を持つようになり、やがて船を降りて、牧師の道を歩む。その道程で紡ぎ出され生まれた詞による賛美歌の一つがアメイジング・グレイスである。

また、同名の映画(2006年イギリス制作)では、若きイギリスの政治家ウィリアム・ウィルバーホース(1759~1833)が、仲間とともに「奴隷貿易廃止法案」を成立させるまでの過程が、マイケル・アプテッド監督により、丁寧に描かれている。

その若き政治家ウィルバーホースの師として登場するのが、先述した牧師ジョン・ニュートンである。また、生まれたアフリカの地に帰れず、連れていかれた先で生きる黒人のその後の苦難は、筆舌に尽くしがたいが、それは、人種差別という形で現代においても続いており、1950年代のアメリカで起こった黒人を取り巻く事件を扱ったノンフィクション映画「ミシシッピー・バーニング」(1988年アメリカ制作:アカデミー賞撮影賞受賞作品)も価値ある作品の一つである。